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かかしの里訪問記

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その村は天草下島(熊本県)の中央部にある。天草市(旧本渡市)中心部から国道266号をつづら折りに走って約20分。滴るような緑の中に小学校が見えた。鉄筋二階建てのこじんまりした姿。二階のベランダから子供たちが手を振っている。車を停め、校舎に向かって歩き出した。
ピラミッド、棒倒し、フォークダンス…。
校庭では運動会のようである。ヘー。いまどきに?


それは案山子たち。よくできたもので遠目には人間にしか見えない。実は、校舎のベランダで手を振る子供たちも案山子であった。

天草市宮地岳。過疎で生徒がいなくなり廃校となった旧宮地岳小学校は「道の駅宮地岳かかしの里」になっている。教室では案山子たちがクマモンと一緒に授業を受けていた。

私は下の写真に目頭が熱くなった。かけっこでゴールしているのは旧宮地岳小学校最後の生徒。あとはみんな案山子たちである。

宮地岳町は典型的な過疎地。2012年、人々の心の支えだった小学校がついに廃校となる。寂れていく故郷をどうにかしたい。能面打ちが得意だったという人がリーダーとなって案山子を作り、祭りのときなどに国道筋に飾って「賑やかし」にしていた。2021年3月から旧小学校に約600体を常設展示することになったという。

職員室だった所に名産品を並べて販売している。こういっては失礼だが、いずこの道の駅も品ぞろえでという意味では大差ない。一巡りした所に地元産の青首大根が積まれていた。1本30円。耕し、種をまき、さまざま手入れして見事に育った大根だった。土から引き抜き、水洗いし、軽トラに積んで出荷する。大根は重い。運ぶとなると高齢者にはつらい仕事だ。それが1本30円。都市部のスーパーならば150円は下るまい。季節によっては200円、300円の値がつくこともあろう。私はこの国の困難の根源を見た気がする。1本30円がせめて100円ならば人々も頑張れるかもしれない。しかし、1本30円ではどうにもならない。どうすれば、人々がこの地に戻ってくることができるだろうか。笑顔が戻ってくるだろうか。

帰路は天草下島の海側を通るルート。指呼の間に島原半島が見えた。かつてこの地では天草・島原の乱が起きた。過酷なキリシタン弾圧、圧政に耐えかねた人々が蜂起したのだ。戊辰戦争を除けば江戸時代最大の内乱である。いま、私たちが「当たり前」と思っている価値観。物質主義に傾斜しすぎた価値観にくさびを打ち込まなければ、この地の活気は戻ってこないだろう。そんな気がする。第二の天草・島原の乱を起こすに等しいものかもしれない。困難な道である。しかし、何とかしなければならない。過疎地が元気になれば、この国は元気を取り戻すことができる。今回、案内してくれたGさんはそんな志を持って東京から天草に移住し、頑張っている。必ず道はある。私はそう思う。

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